はじめに
いまだに blog 記事にはできていないのだけど、2024年春ごろからは VyOS を諦めて、各所の VPN ルータを OpenWrt に移行している。OpenWrt のメリットや移行経緯は長くなるのでこの記事では割愛するが、記事化に躊躇している大きな理由があった。
- OpenWrt はいわゆる「インストーラ」が存在しない
OpenWrt は、もともと既存の市販ルータのファームウェアを Linux ベースで作り直してオープンソースで公開する、という特殊な立ち位置である。
以前に書いた VyOS ルータの構築記事 のように、x86 ベースのベアボーン PC にインストールもできるし、VM の仮想ルータとして使うこともできる。自分は、これまでオフィスの拠点間 VPN 用に構築してきた pfSense, OPNsense , VyOS も OpenWrt に概ね移行できたのだが、前述のようにインストーラーがないため、初期インストール手順が若干ハードルが高い。
インストーラパッケージがないのにどうやってインストールするのかというと、
- パーティションテーブルを含むディスクイメージを、直接 HDD/SSD に生データとして書き込む
必要がある。PC ルータ機を分解して HDD/SSD/SD カード等の起動ストレージを取り外し、Windows PC 側で USB へ変換するアダプター経由で取り付け、なんらかのツールでディスクイメージを書き込み、またルータに付け直して起動する。書き込み設定が間違っていると起動しないので、これを何度か繰り返すことになる。分解+組み立て工程が増えるので面倒だし、滅多に使わないのに都度 Amazon で怪しい USB 変換アダプター (SATA, mSATA, NVMe) をポチってきた。
これではマニアックすぎて記事でも広くお勧めできないし、「滅多に使わない特殊なアダプターを買わないと作業できない」となれば、チャレンジ意欲もなくなろうというものである。
今後も OpenWrt を展開したりメンテナンスするために何か手はないかと考えていたところ、
- PCルータ上で USB メモリから Live Linux を起動して、dd でイメージが書ければ楽なのでは?
- ルータの分解も不要だし、USB-SSD アダプタも要らなくなる
と思い当たり、試行錯誤の結果、MX Linux に出会うことになった。
MX Linux の特徴

MX Linux は Live Linux でありながら、こんな特徴がある。
- USB Live Linux の中では比較的起動が速い
- FAT32 フォーマットで USB メモリに展開できる
- Windows PC からファイルを追加可能
- → OpenWrt の .img ファイルも Windows から追加しておける
- Windows PC からファイルを追加可能
- レガシーBIOS / EFI それぞれに対応する MBR / GPT パーティションも構成可能
- USB メモリ作成時に指定
- GUI が利用できる
- Xfce / KDE / Fluxbox からお好みで
- 標準で Firefox / Thunderbird 等も登載
- GitHub で無償公開されている
- Debian ベースで kernel や標準パッケージも追従している
- 有志による日本語マニュアル もある
KM Linux セットアップ
USB メモリの準備
手持ちで大体 16GB 以上の USB メモリがあれば作れるが、できれば USB 3.0 (5Gbps) 程度の比較的速いメディアをお勧めする。目安としては USB Type-A の 端子部分が青い もの。端子が白いタイプの USB 2.0 以下では、速度が 10分の1 程度しか出ず、ストレスフルである。
さらに高速な USB メモリ (10Gbps/20Gbps 以上) は快適ではあるが、高価であり、発熱が大きいため個人的にはあまりお勧めしない。
本記事では日本製の KIOXIA(旧東芝メモリ) TransMemory U301 32GB をお勧めしておく。2025年4月時点で、Amazon では 700~900円程度である。
MX Linux のダウンロード
作業用 Windows PC のブラウザで、下記のサイトからイメージをダウンロードする。

本記事の目的のように「OpenWrt の書き込みに使いたい」だけであれば MX-nn.n_x64 がお勧め。ここ 10年以内の大抵の PC であれば 64bit 対応であり、搭載メモリやディスクサイズ制限を気にせず利用可能。
最新の Graphics ドライバを使いたいのなら ahs (Advanced Hardware Support) イメージを試すのもいいかもしれない。
2025/4/21 時点では、上記のリンクから MX-23.6_x64.iso をダウンロードし保存しておく。
USB 書き込みツール Rufus の用意
Rufus (ルーファス) 最新版をダウンロード。
2025/4/21 時点では rufus-4.7p.exe 。
インストールは不要で、先ほどの MX Linux の .iso と同じフォルダに保存しておく。
USB メモリへのインストール
- MX Linux をインストールする USB メモリを、Windows PC に挿入
- フォーマットする必要はない
- Rufus 起動
- 「デバイス」が書き込もうとしている USB メモリで間違いないか、容量等をよく確認
- [選択] で ダウンロードした .iso ファイルを選択
- パーティション構成: [GPT]
- ファイルシステム FAT32
- その他は関係ないので変更しない
- [スタート]
- 「ISOHybridイメージの検出」
- 「ISOイメージモードで書き込む」→ [OK]
- 「Rufus」
- データ消去の警告が出たら、再度書き込み先デバイスが間違っていないか最終確認
- 問題なければ [OK]
- 「状態」の進行中の緑のバーが100%になるまで待つ
- 完了したら「準備完了」になるので「閉じる」
- タスクバーのエクスプローラーのアイコンを右クリックして、「取り出し」
- USB メモリを抜く
MX Linux 利用 PC で初回起動
- MX Linux 利用 PC にモニタ・キーボード・マウスを接続し、今作成した USB メモリを挿して電源オン
- GPT / EFI 起動の場合は、BIOS で Secure Boot を OFF にしておくこと
- BIOS のブート優先順位で 該当 USB メモリのドライブを指定しておくか、起動する度にブートメニューで USB メモリを選択する
MX Linux ブートローダー 初回設定
USB メモリから起動すると、ブートローダー (Grub) の設定画面に入る。
Language - Keyboard - Timezone を選択 [Enter]
lang=ja_JP: 日本語 - Japanese を選択 [Enter]
一つ前のメニューから キーボード選択に入り、 kbd=jp : 日本語 - Japanese で [Enter]
lang=ja_JP kbd=jp tz=Asia/Tokyo になったことを確認
変更全てを保存したいので p_static_root を選択
grubsave セーブ を選択し、ここまでの起動設定を保存する
一番上の MX-nn.n x64 (日付) を選択し MX Linux を起動する
MX Linux 初回起動時
パーシステンス領域の作成を求められるので、2) create custom → 14) 4.00GiB をそれぞれ指定
USB メモリ上に SWAP ファイルは作成しないので n[Enter]
日本語にした影響で文字化けして読めないが、root パスワードと demo パスワードを聞かれるので、2回ずつ入力する
MX Linux 初回起動 GUI デスクトップ画面
ここまで問題がなければ、デスクトップ画面が表示される。ログイン操作は特に不要。demo ユーザーとしてログインした状態になる。
GUI からのシャットダウン方法
左上のアイコンクリック → シャットダウン(D) または 再起動(R) をクリック
GUI なしで boot する
MX Linux: Boot parameters によると、linux kernel オプションに 3 を指定すると Run level 3 (テキストモード) の意味になる。
Grub の起動メニューで、MX-23.6 x64 の行を選択した状態で [e] キーを押す
カーネル起動オプションの編集画面に入るので、linux 行の最後尾に 3 を追記 し、[F10] キーで boot させる。
GUI が起動せず、CLI の画面になる。ログインは root ユーザーと、先ほど指定した root のパスワードでログインできる。
Windows PC → MX Linux でのファイル交換方法
Windows PC 側:
エクスプローラーで MX Linux の USB メモリ内にファイルを配置できる。
MX Linux 側
ファイルマネージャで /live/boot-dev/ を開くと、USBメモリのトップフォルダを参照できる。
所感
- 一般的なのディストリビューション: CentOS Stream, Rocky Linux, Ubuntu にも Live Linux 版は存在するが、システムが変更できない緊急 boot 用としての位置づけのようである。
- これらはファイルシステムに ext4 等を採用しているため、Windows との相互ファイル交換には向いていない。
- MX Linux は、複雑なパーミッションを持たない FAT32 ファイルシステムでの利用が念頭に置かれており、またパーシステンス (変更の永続性) の機能も用意されているため、非常に小回りが効くディストリビューションと言える。